渚の歓喜(エクスタシー) (1992)
2006年 05月 11日
“すべての音盤はすべからくターンテーブル上(CDプレーヤー内)で平等に再生表現される権利を有する”
この宣言通り、報われることなく打ち捨てられた特異な歌謡曲の亡骸を掬い取るべく活動に勤しむ幻の名盤解放同盟。
怪しく蠢く業深き歌謡曲の一大絵巻として彼らが丹精込めてまとめ上げた編集盤シリーズを採り上げて行きます。
本作は應蘭芳の5曲が軸に据えられています。
ジャケット・デザインにあしらわれた彼女がその容姿の割には想像以上に耳元で甘く囁き通すという、さしずめ官能小説ならぬ官能歌謡といった具合です。
小唄風のM11「青い靴のブルース」以外は囁きと喘ぎと悶えで成立していると言っても過言ではありません。
本作にはまた、ムード歌謡が3曲織り込まれています。
The Temptationsのあの有名曲「My Girl」のギターのフレーズをちゃっかり拝借したR&B調のM3「ヨコハマ物語」。
正調ムードコーラスながら、こちらがどうしたのと訊きたくなるほど身体も気分も悪くなりそうなM7「どうしたの」。
ファンキーで軽快なM12「恋の赤坂」は、サビで聞かせる伸びやかな歌唱が逆に空しさを増幅させます。
凍り付くように絶望的な歌唱からは、やはり諦念が漂うM6「奇跡は起こらなかった」と最終電車にも乗り損ねそうな幸薄な人間模様が描かれた阿久悠作詞のM14「最終電車に乗る女」も聞き所です。この2曲には思わず落涙。
個人的に最大の聞き物なのがM5「硬派銀次郎」です。
この楽曲の台詞、歌詞など全編に渡って笑わせられます。本宮ひろ志の漫画を地で行く熱血漢が勘違いな啖呵を切って切り倒す訳です。
そして、隠し味に使われるのはやはりクィーカなのです。
収録曲は以下の通りです。
M1「渚の歓喜」應蘭芳 (1968)
M2「火遊びのブルース」應蘭芳 (1968)
M3「ヨコハマ物語」中川浩夫とアンジェラス (1973)
M4「花の対抗試合」倉丘伸太郎 (1964)
M5「硬派銀次郎」山田銀次郎(セリフ:川島千代子) (1980)
M6「奇跡は起こらなかった —『17才の絶唱より』」セッちゃんとぼく (1970)
M7「どうしたの」マハロ・エコーズ (1967)
M8「変な串かつ教室」屋台のおっさん (1975)
M9「痛い痛い痛いのよ」應蘭芳 (1969)
M10「背中のほくろ」應蘭芳 (1969)
M11「青い靴のブルース」應蘭芳 (1969)
M12「恋の赤坂」チャーリー&マッシー (1973)
M13「わたしゃ人生大学生」フランク永井 (1965)
M14「最終電車に乗る女」水沢夕子 (1972)
M15「竜馬音頭」奥田清 (1968)