シューベルト物語 (1993)
2006年 10月 20日
“すべての音盤はすべからくターンテーブル上(CDプレーヤー内)で平等に再生表現される権利を有する”
この宣言通り、この世の果てに打ち捨てられた特異な歌謡曲の亡骸を掬い取るべく活動に勤しむ幻の名盤解放同盟。
タンスの後ろの5円玉に手が届かないくらい業が深い歌謡曲の一大絵巻として彼らが丹精込めてまとめ上げた編集盤シリーズを採り上げて行きます。
表題曲のM1「シューベルト物語」を“夜霧の一人通訳歌謡”とは上手く言ったもので、謎のPL学園英語教師であるニッキーが特異な世界を描いています。
情緒感たっぷりの甘い調べに荘厳なストリングスもよく映えています。
強烈なR&B歌謡として猛威を振るうM2「愛の絶唱」は、太子乱童のデビュー曲にして本作最大の目玉であると言えましょう。
サビで突如猛り狂うファズる喉が全開するも、大サビにて何事もなかったかのように元の浪々とした歌唱に転じるという極めて破天荒な1曲です。
のどかな任侠歌謡M3「モナリザ仁義」とは逆に深刻な内容に相反する颯爽とした社会派歌謡M4「公害ブルース」の場合、こんなにのどかでは困ります。
話題騒然のM6「ダイナマイト・ロック」と来れば、出だしからオートバイのV8エンジン音が吹きすさび、カスタネットの音が軽快に打ち鳴らされることから大いに煽られます。
ブラス隊とともに男気溢れる辰兄いの熱い想いがほとばしる切った張ったの爆走ロックです。
M11「ほんのはずみさ」には、グレート宇野という名に釣り合わないほどに明朗な歌唱に独特のものがあります。“ほんのはずみさ すべてこの世の中は”などと歌われ、何やら形而上学的な臭いも充満しています。
寝た子を起こすM12「男のマーチ」というけれんみのない男根讃歌以降、お色気歌謡がいくつか続きます。
後に幻の名盤解放同盟によってまとめて解放された内田高子のM13「噂の恋」で聞ける堂に入った歌いっぷりには思わず舌鼓を打つほかありません。
全身を舐め回されるような錯覚さえも頭をもたげて来るほどです。
時アリサがM14「女のときめき」において、過剰な粘着質で以て男どもを一網打尽にしてしまうのに続き、イレーヌ和田の舌足らずぶりが発揮されるM15「DUBA LA BA LOU」という流れは本作の白眉です。
また、同じくイレーヌ和田によるM16「愛のほのお」についてはラテンの要素がそうさせるのでしょうか、少々下品とも言えるガール・ポップとして胸を焦がしてくれます。
佐久間浩二によるM17「暗い港」、さらにはM18「怨歌」となると絶望の淵でバケツを両手に立たさせれている気持ちになります。暗い、とにかく暗い内容を比較的朗らかに歌っていることが救いでしょうか。
流石のテイチク・レコード音源集です。混沌とした中にもきらりと光る昭和歌謡のえげつなさ(←何のこっちゃ)が際立っています。
収録曲は以下の通りです。
M1「シューベルト物語」ニッキー(1969)
M2「愛の絶唱」太子乱童(1971)
M3「モナリザ仁義」鈴江京子
M4「公害ブルース」アプリコット(1970)
M5「当地興行」栃若清光(1974)
M6「ダイナマイト・ロック」梅宮辰夫(1969)
M7「コンドルは飛んで行く」トリオ・ロス・チカノス(1971)
M8「時計をとめて」トリオ・ロス・チカノス(1971)
M9「ブラボー東京」北条竜也・吉本まゆみ(1967)
M10「僕ら就職コース」石黒高二(1964)
M11「ほんのはずみさ」グレート宇野(1970)
M12「男のマーチ」小宮あけみ(1969)
M13「噂の恋」内田高子(1970)
M14「女のときめき」時アリサ(1970)
M15「DUBA LA BA LOU」イレーヌ和田(1969)
M16「愛のほのお」イレーヌ和田(1969)
M17「暗い港」佐久間浩二(1971)
M18「怨歌」佐久間浩二(1971)
M19「人生一、二、三」江波健太郎(1967)
M20「女と花ごころ」小山恵子(1972)
M21「釜ヶ崎人情」三音英次(1968)